東京に生まれて60年
文化人が集った社交場
オーナーバーテンダーの石橋乙宏氏は昭和34年(1959)に「バー ・グリニッチ」を四谷の杉大門通りにオープンした。きっかけは、当時働いていた店の客たちから開業を勧められたことで、いまだにその頃の常連も多く、なかには58年通っている客もいる。
店名は内外装をスコッチ風にしたことから、天文台で知られる「グリニッチ」とつけた。昭和51年(1976)に赤坂に移った際も店名とクラシカルな上品さが滲む空間はそのまま引き継がれた。

店には多くの文化人が通い、夜な夜な談義を交わした。一時期置いていた雑記帳には、デザイナー・亀倉雄策氏、漫画家・伊達圭次氏、小島功氏など名だたる面々の落書きが。

「お客様から色んな話を聞けるのが今も昔もやりがい。自分では到底及ばないお客様たちに接する店は、私にとって修練の場です」と語る石橋氏の眼差しは柔らかい。驕らず、気取らず、粛々と店を続けるその人柄に惹かれ、今宵も客が足を運ぶ。

写真/遠藤 純