太平洋戦争の最中に地元14の蔵が合併して誕生
銀雪をまとった朝日連峰を内陸に抱き、西側には荒波砕け散る日本海の海原がどこまでも広がっている。山紫水明の地とも例えられる北越後の村上は、かつて村上藩の城下町として栄え、今もその面影を町の随所に残している。朝日連峰を源に日本海へと注ぐ三面川(みおもてがわ)は、秋には鮭が遡上することでも知られ、鮭は藩の重要な財源にもなっていた。また、酒造りも盛んに行われ、幕末頃には50を超える蔵元があったという。


その後、時代が下った昭和20年(1945)、太平洋戦争の最中に、当時14軒あった地元の酒蔵が国家総動員法、企業整備令の公布により合併。これが「大洋酒造株式会社」の始まりである。創立当初は社名を「下越銘醸株式会社」、銘柄は「越の魂(こしのたま)」として発足したが、5年後に一般公募で酒名を募って「大洋盛(たいようざかり)」と命名。それに合わせて会社名も大洋酒造に改名した。




因みに、14軒の中には現在ある清酒「〆張鶴(しめはりつる)」の旧蔵元も加わっていたが、昭和32年(1957)に独立し、村上市の蔵元は2軒となり今に至っている。旧蔵元の中には寛永12年(1635)創業の蔵もあり、『好色一代女』で知られる井原西鶴もその中で村上の酒のことを記述。越後の北端に位置する村上の酒造りは長く歴史に寄り添っている。



さて、当蔵は全国に先駆けて“吟醸酒”を市販した草分けとしても知られ、昭和47年(1972)には「大吟醸大洋盛」の第1号を発売。各酒類鑑評会において数多くの受賞歴を誇っている。近年は原料米の栽培研究にも力を注ぎ、その成果として平成30年度は、関東信越国税局酒類鑑評会、純米吟醸部門の最優秀賞を受賞した。
大らかさ・豊かさをイメージする「大洋盛」の意味には、「ひたすらに酒造りを続けてきた細い流れも、合流することで大河となり、洋々として大海に向かう」という想いが込められている。村上の地元の米、水、人(技)にこだわり、土地の気候風土を生かして丹精込めて醸される極上の酒。それは本物の地酒、そして日本酒の文化を創造することでもあるという。
銘酒を醸す蔵人の情熱
白い湯気がもうもうと上がり静寂の朝の空気に活気が漂う







米・水・人、そして時が醸す柔らかく淡麗な酒




大洋酒造オススメの燗酒に合う酒
燗酒に最適な本醸造や普通酒、純米酒など、鮭料理をはじめとする滋味深い郷土の味とよく合う旨口の酒が揃う。
県内屈指の食どころで育まれた料理に合う
村上は県内有数の食の宝庫。伝統の鮭料理をはじめ、日本海の魚介類、ブランド牛の村上牛、朝日地区の豚肉や山菜料理など豊かな食文化があり、それは日本酒の消費量が日本屈指という村上において、食は銘酒と共に親しまれているといっても過言ではない。
特に鮭は江戸期の藩政時代からの献上品で、村上は鮭料理と鮭の加工食品の町として名を馳せてきた。なかでも塩引き鮭は村上の寒風の中に干して熟成させる独特の逸品。薄くスライスし食べる直前に日本酒をふりかける“鮭の酒びたし”は絶好の酒肴として好まれている。
「“鮭・酒・人情(なさけ)の町。そして、旨さが光る大洋盛”をモットーに、大洋酒造の日本酒は村上の食に寄り添った淡麗な辛口を特徴としています」と話す社長の中山芳則さん。原料の酒米は「五百万石」「たかね錦」「越淡麗」など全て地元・新潟産にこだわり、仕込み水は磐梯朝日国立公園にある朝日連峰を水源とする地下水を使用。そして造り手は地元で農業に携わる蔵人たちで、彼らは春から夏に米作り、秋から冬は酒造りに情熱を注いでいるという。

郷土の味を引き立てる淡麗辛口系の中で特に燗酒にお勧めなのは、まずは「金乃穂 大洋盛」と「特別本醸造 大洋盛」の2本。
村上の食と共に磨かれた本醸造や普通酒の定番酒
前者は普通酒でありながら、吟醸酒と同等に米を磨いた後味爽快な味わい。後者は当蔵の代表商品で、吟醸酒に匹敵する香りとすっきりとした口当たりは、どんな料理にも合うと不動の人気を誇っている。いずれも冷やから熱燗まで対応できるが、温めることでより香りと旨味が引き立ち、地元では燗酒の定番として愉しむ人が多い。
「毎日の晩酌の酒として力を入れているお酒なので、賞をいただけたのは本当に嬉しいです」
一方、「山廃特別純米 サケ×サケ大洋盛」は、字のごとく鮭料理に合う日本酒として造った純米酒で、常温やぬる燗がお勧め。デザイン性の高いラベルも好評だ。さらに地元産の酒米「五百万石」を使った「特別純米 大洋盛」や特約店限定の清酒「北翔」シリーズは、ちょっと贅沢な晩酌に味わいたい地酒として人気がある。
「熱燗徳利と杯で、お互いにつぎ合いながら語り合う……これこそまさに日本の酒文化ですよね」
常温から熱燗までカバーする飲み口「特別本醸造 大洋盛」

吟醸酒に匹敵する手造りの本醸造酒。ほのかな香りと柔らかい口当たりの「大洋盛」の代表酒として地元で親しまれている。優しい香りとスッキリした味わいで、料理を選ばない。“燗酒コンテスト”2020[金賞]、“燗酒コンテスト”2012[最高金賞]を受賞。北越後の酒らしいきりりとした味わいと、常温から熱燗までいける懐の深さを併せ持っている。
特別本醸造 大洋盛(とくべつほんじょうぞう たいようざかり)
容量/720ml、1,800ml
価格/865円(720ml)、1,940円(1,800ml)
原料米/麹米 五百万石(新潟県産)
掛米/新潟県産米(新潟県産)
酵母/協会701号
精米歩合/60%
日本酒度/+5
酸度/1.0
アミノ酸度/0.9
精米歩合60%のハイレベルな普通酒「金乃穂 大洋盛」

吟醸酒と同等の精米歩合60%まで磨いた全国でもハイレベルな普通酒。穏やかな香りと爽やかさが特徴。淡麗な味わいと、後味の爽快な呑み飽きない清酒であり、毎日の晩酌用として最適だ。冷やから燗まで好みに応じて、幅広く愉しめるが、特に常温、ぬる燗が最適だ。ちなみに“燗酒コンテスト”2020 [最高金賞]や同2015 [金賞]受賞している。
金乃穂 大洋盛(きんのほ たいようざかり)
容量/720ml、1,800ml
価格/720円(720ml)、1,710円(1,800ml)
原料米/麹米 五百万石(新潟県産)
掛米/新潟県産米(新潟県産)
酵母/協会701号
精米歩合/60%
日本酒度/+5
酸度/1.0
アミノ酸度/0.9
鮭料理に合う日本酒をテーマに「山廃特別純米 サケ×サケ 大洋盛」

原料からの乳酸発生を促しながら酒母を造る「山卸廃止酛」純米酒。旨味成分が多く味わい豊かで越後酒らしい後味のキレの良さもある。鮭の食文化で全国に知られる新潟県村上市で「鮭料理に合う日本酒」をテーマに開発をし、利き酒を重ねて誕生した酒だ。常温、ぬる燗がお勧め。
山廃特別純米 サケ×サケ 大洋盛(やまはいとくべつじゅんまい さけさけたいようざかり)
容量/720ml
価格/1,380円(720ml)
原料米/麹米 五百万石(新潟県産)
掛米/新潟県産米(新潟県産)
酵母/非公開
精米歩合/60%
日本酒度/+3
酸度/1.9
アミノ酸度/1.0
とことん新潟にこだわった純米酒「特別純米 大洋盛」

地元産の酒米「五百万石」を主原料に、とことん“新潟”にこだわり、酒米の良さを引き出す純米酒。純米酒にありがちなクセを抑えつつも、その特長である酸味が酒の味を引き締めている。冷酒から燗まで幅広く愉しむ事ができる懐の深さも併せ持つ。料理を選ばない懐の深さを持っている。たくさんの酒類鑑評会にて数多くの賞を受賞している。
特別純米 大洋盛(とくべつじゅんまい たいようざかり)
容量/720ml、1,800ml
価格/1,140円(720ml)、2,280円(1,800ml)
原料米/麹米 五百万石(新潟県産)
掛米/新潟県産米(新潟県産)
酵母/協会701号
精米歩合/60%
日本酒度/+5
酸度/1.0
アミノ酸度/0.9
少々贅沢な晩酌用として醸した定番酒「清酒 北翔」

「大洋盛」以外に「高品質の酒を低価格でお届けする」というコンセプトで、特約店からの注文分だけを仕込むのが「北翔」だ。普通酒にして吟醸酒クラスの55%精米という高精米、高品質を実現する、知る人ぞ知る銘酒だ。すっきりとした中にもしっかりとしたコシがあり、冷やでも燗でも気楽に愉しめる。名前は「越後の北から飛翔し、村上人が造り育ててきた地酒を」という蔵人の願いに由来している。
清酒 北翔(せいしゅ ほくしょう)
容量/720ml、1,800ml
価格/900円(720ml)、1,850円(1,800ml)
原料米/麹米 五百万石(新潟県産)
掛米/新潟県産米(新潟県産)
酵母/協会701号
精米歩合/55%
日本酒度/+5
酸度/1.0
アミノ酸度/1.0
九代目社長として酒を極める 中山芳則さん

当蔵で32年間勤務。製造部長等を歴任し、昨年11月に9代目の社長に就任。「受け継いだ伝統と先進の技をより磨いていきます」
大洋酒造(たいようしゅぞう)
新潟県村上市飯野1-4-31
TEL/0254-53-3145
https://www.taiyo-sake.co.jp/
酒蔵見学/現在休止
大洋盛が呑める地元の名店
三面川に鮭がのぼり、やがて寒風に、粉雪が舞えば熱燗の季節だ。
伝統の郷土料理を美酒と共に「割烹 千渡里」

鮮やかな鮭づくしの料理をすっきり辛口の熱燗で
村上を代表する郷土の味・鮭料理はもちろん、その日仕入れた新鮮な魚介類から村上牛などなど、メニューを眺めるほどに食欲がそそられる多彩なラインアップ。ご主人や女将さんたちの温かな接客にも心和み、地元の人から観光客、著名人なども多数訪れている村上きっての人気店である。

昭和27年(1952)に先代が一杯呑み屋を開業したのが始まりで、その後、京都で修業をした現主人の竹内信さんが二代目を引き継ぎ、割烹料理店に。
「お酒、料理のこと何でも聞いてください」と、わがままも大歓迎と笑顔を見せる。店はカウンターと小上がり、個室があるが、磨かれた木曽檜の一枚板カウンターが目に入り、こちらへと陣取る。

まずは迷うことなく熱燗を注文。晩酌用の定番だという地元限定の「大洋盛 紫雲」の燗をつけてもらう。


一合徳利から飲み口の薄い平たい杯に注ぐと、酒の繊細さも立つようで格別。やや熱めにしてもらったが、柔らかさと香りが立ち上がり、喉に流し込むとじわり五臓六腑に染み込む。

料理はもちろん今回は鮭料理を中心にお任せで。供された鮭八寸と題した長皿の料理には、鮭ほっぺた、氷頭せんべい、飯寿司、鮭の白子煮、鮭の塩辛など鮭の珍味が鮮やかに盛られていた。そして村上ではハラコと呼ぶイクラ、塩引き鮭のカマ焼きなど、いずれも燗酒との相性は絶妙だ。気になっていた「鮭の酒びたし」も、食する前に酒を少し垂らして味わうと風味抜群! 固い身も柔らかくまろやかになり、まさに“酒びたし”とは言い得て妙だ。
「鮭は、お正月には神棚にあげるほど大事にしているものです」。滋味にあふれた鮭料理共に、熱燗の酔いが体を包み込む。



割烹 千渡里(かっぽう ちどり)
新潟県村上市細工町2-14
TEL/0254-53-6666
営業時間/(昼)11時~13時、(夜)17時~21時30分
定休日/日(火、水、木ランチタイム休)
八の字は“末広がりに繁盛”の思いで「磯料理 八千草」

主人が選んだ新鮮な魚介類熱燗に合う料理はお任せで
茜色の空が深紫色に変わっていく時間帯、店の軒下には暖簾が掛かり、看板ライトがポッと灯る。八千草の字が浮かび上がるその店は、夫婦ふたりで切り盛りする小さな料理どころ。知らないとその扉はちょっと開けにくいかもしれないが、一度入ればすぐにお馴染みさんのように解け込めるだろう。というより、旅先でこんな店で一献傾けるという状況が何だか旅慣れている感じで嬉しい。


磯料理と銘打っているだけに、新鮮な魚介類がメニューの中心。カウンターに座ると目の前に水槽があり、近海で獲れる魚介類が存在感を放っている。この日はバイ貝やアワビ、車エビなどの姿が。

「お好きな調理法でお出ししますよ」と主人の中村達夫さん。黒板にその日のお勧め料理が手書きされており、水槽の魚やメニューを見ながら注文するのが基本だが、さらに主人のお任せコースも常連の間では人気がある。
今回はお任せ料理を選択。実はこれがなかなかお得な内容で、焼き魚や刺身など2,000円で5品が供されるのだ。そして大洋盛の酒は燗酒にぴったりの「紫雲」のみなので、迷うことなくそれをまず注文する。ちなみに「紫雲」は、大洋酒造が合併創業50周年を記念して平成5年(1993)に発売した普通酒。吟醸酒と同等の精米歩合で、地元ではお手頃で毎日呑める旨い酒としてファンが多い。「料理を引き立ててくれる呑み飽きしない辛口なんですよね」

そんな酒に合わせてこの日に出してくれた5品は、佐渡ブリやバイ貝などを盛ったお造り、ヤナギガレイの焼き魚、ネギサラダ、ムカゴのバター醤油焼、女ガニなどなど。特に、小さいが濃厚な味の女ガニは冬の季節にしか食せない一品。熱燗と一緒に味わう幸せは言葉に形容できないほどだ。

末広がりに繁盛する、という意味を込めた「八千草」の店名。主人一代で創業32年目を数えるが、常連が足繁く通うのは、やはり美味い料理と酒があるからだろう。

磯料理 八千草(いそりょうり やちぐさ)
新潟県村上市山居町1-1-2
TEL/0254-52-1213
営業時間/17時~24時
定休日/日
文◎岩谷雪美 撮影◎秋 武生
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