とにかく腕時計に実装するのが難しい仕組みを、2つ同時に同軸に搭載!
機械式時計は電池を動力源にするクオーツと違い、巻かれたゼンマイが解けていく過程で発生する力を動力源にしている。このゼンマイは巻き上げると力が強くなり、ほどけるにつれ力が弱くなっていくのが特徴だ。(ゼンマイ式のオモチャを思い出して欲しい)
“振り子”や“テンプ”の原理を利用すれば理論上、一定のリズムを刻み続けることが可能だ。しかし様々な要因によりゼンマイがほどけると機械式時計の正確さは失われてしまう。つまりゼンマイのトルクが一定に動作すれば、すなわち機械式時計の精度は上がる。
そこで登場するのが「コンスタントフォース機構」である。これはゼンマイの力を別の小さなバネ(定力バネ)に蓄えることで、そのバネが元に戻ろうとする力で振り子やテンプを動かし、トルクを一定に保つことができる仕組み。必要な部品点数も少なく、小さな腕時計にはもってこいの機構だが、設計と製造が非常に難しく実際に搭載するにはハードルが高い。
もうひとつの「トゥールビヨン機構」は、一般的に固定される時計の心臓部“テンプ”と周辺部品を回転させることで、重力の影響を0にさせる仕組みだ。このシステムも実装にはハードルが高く、搭載されたモデルは軒並み価格が高くなる。

それぞれにとても難しい“仕組み”であることは、何となく理解いただけただろうか?
グランドセイコーが今回発表したコンセプトモデル「T0 コンスタントフォース・トゥールビヨン」は、この2つの“とても実装が難しいシステム”を『同軸に備えて一体化した』(!?)世界初のムーブメントなのだ。
“限りなく正確な機械式時計”その実現に向け、グランドセイコーは世界に先駆けて開発に成功した。これは間違いなく「世界の時計史」に残る快挙でもある。

「グランドセイコースタジオ 雫石」(岩手県雫石町)では、新型コロナウイルス感染拡大防止のため公開を見合わせているが、いずれ実際にこのコンセプトモデルの見学ができる予定だ。(完全予約制・予約受付の開始時期はグランドセイコー公式HPにて案内)
“百聞は一見に如かず”で連続して回転するトゥールビヨンに、コンスタントフォースの断続的な回転が追随するユニークな動きを見ることができる。また、2つの機構が刻む音は“16ビート”。その音も楽しみたい。
ちなみに2020年8月にグランドセイコーがリリースした機械式ムーブメント「9SA5」は商品化を目指して開発されたものだが、「T0 」は機械式時計としてさらなる高精度化を遂げるため、商品化にとらわれない自由な発想で生み出された複雑機構だという。ということは、商品化されるか(今のところはまだ)わからないのだ。
腕時計マニアに告ぐ。公開展示がされたその際には、実際にその目で確かめに行くことをオススメする。
グランドセイコースタジオ 雫石
住所:岩手県岩手郡雫石町板橋61-1 盛岡セイコー工業株式会社内
見学:完全予約制での公開
(新型コロナウイルス感染拡大防止のため公開を見合わせ中
予約受付の開始時期はグランドセイコー公式HPにて案内)
【公式HP】
グランドセイコー
グランドセイコースタジオ 雫石
▼こちらもおすすめ