「戦争に負けて帰ってくる復員兵を元気付けたい」。創業者の劉盛森さんがそんな思いで戦後まもなく小さな喫茶店をオープンさせたのは大阪駅前の闇市だった。その後、昭和45年(1970)に「マヅラ喫茶店」を開店し、50年以上の歴史を今も更新しているのだ。
戦後の混沌から出発し、輝く未来を夢見た場所
大阪駅前の再開発プロジェクトが大々的に行われた昭和45年、大阪駅前第1ビルの完成と同じくして「マヅラ喫茶店」がオープンした。それまでは闇市で小さな喫茶店を営んでいた劉さんだが「ひと時の夢を見てほしい」という思いを胸に店を出し、内装に反映させたという。

フロアの中央は土星の輪のように円形にソファ席が配置され、周りに小さなテーブル席が衛星のように散らばっている。未来都市が描かれた大きな壁画、クレーターのようなレリーフが施された青い天井、宇宙に浮かぶ星々のような球形のランプ。100坪にも及ぶグランドスケール空間は喫茶店の概念をはるかに超え、壮大のひとことだ。

この、まるで古き佳き時代のキャバレーのようなきらびやかな空間の中で、人々は賑やかに語り合い、もしくはひとりで静かにコーヒーを楽しんでいる。夕暮れ時には店の奥にあるオーセンティックな雰囲気のバーカウンターでカクテルを楽しむ客もいる。
「お客さんも喜んで、うちの店も儲かって、双方がニコニコできる商売を」が口癖の劉さんは100歳を迎えようという今でも元気に店に立っているが、店の実務は二代目マスターの畑光男さんが取り仕切っている。「物価・相場に左右されないようコーヒー豆を先々まで2年半分ほど確保しています。さらに、自家焙煎でいつも変わらぬマヅラの味を提供できるんですよ」とは、一杯250円で提供されるコーヒーについて尋ねた答えだ。

大阪駅前の一等地に店を構えているにもかかわらず、20年以上も値上げをしていないというから驚きである。グリーンに輝くクリームソーダは330円、昔懐かしい喫茶店の味・ホットドッグはコーラ付きで500円と破格な値段で提供されているのだ。

朝9時に開店し21時まで営業するスタイルのため、メニューも喫茶、料理、カクテル、ウイスキーとジャンルレスに揃う。モーニングコーヒーからバータイムまで、どんな風にでも過ごすことができるのだ。
さて、今日はどう過ごそうか。一杯のコーヒーを片手に、マヅラ喫茶店という広い宇宙の片隅で、ひとりひっそりと物思いに耽ってみるのも楽しい過ごし方だ。

【基本情報】
住所:大阪府大阪市北区梅田1-3-1 大阪駅前第1ビル B1F
最寄り駅:JR「大阪駅」より徒歩5分
営業時間:9:00~21:00
定休:日曜・祝日
文/郡 麻江 写真/松本光洋